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 秋に立ち止まる

日本にははっきりとした四季がある。
昔から言われて久しいことではあるが、
そうした季節の移ろいを享受できることは、
日本という国で生まれて生きる人間の、いわば特権。

冬がやってくる前に、秋がひときわ輝く瞬間がある。
それは、紅葉。
北日本の標高の高い山間部から、
まるで降りてくる使者のように各地を巡って、
山々を赤く黄色く染めてゆく。
そうした一方で陽の光はいくらか硬さを帯び、
自然のチップを透かしてきらきら輝かせる。
すすきたゆたう初秋から主役を代わって、
進む季節を感じた目を楽しませてくれる。

頬を掠める風がひんやりと乾いていて、
それが眠りの時期の間もなくの到来を教えてくれる。
陽の落ちたあとの時間は、
頬をかするような空気があたりを包んで、もう寒い。
昼間、かろうじて味わえる暖かさが貴重に思えて、
そろそろ冬支度をせねばと思うのである。

紅葉の時期は、その年の色の、終焉。
やがて来る冬が好きなのも確かだが、
寂しい気持ちを以て晩秋を過ごすのも、また事実なのである。


中央本線 奈良井−薮原間にて  2011年11月



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