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 夜汽車

平成27年春、寝台特急“北斗星”“トワイライトエクスプレス”などが、
とうとう長年の運行に幕を下ろすことになった。
車両も古くなり、そして新幹線の開業もこれに絡んでいるか。
これらは昔日とは違う、豪華な寝台列車という位置づけではあるが、
戦後に20系で始まったブルートレインが消滅するという、
大きな歴史の出来事となろう。

ちょっとは嘆いておかないと気が済まない。
ブルートレインという記号性ある列車が…よりも、
日本全国から“夜汽車”というものがなくなることについて、である。
日本には多種多様、多くの列車が存在するが、
独特の響きを持つ“夜汽車”ほど旅情極まるものはないからだ。

都心からやがて郊外に出て、次第に闇夜に向けて歩みを進める。
車窓の灯りは徐々に減っていき単調な漆黒になる。
いつしか車内の灯りも暗くされ、人の会話も動きもなくなって、
心地よい揺れとジョイント音に包まれてゆく。
「ピーッ」とホイッスルが鳴って小さな駅を通過した。

そんな、暗闇の車窓と列車の奏でる音だけの世界で、
好きな音楽に耳を任せるのもいい。
読みそびれた本をじっくり読み耽るのもいい。
ちびりちびり酒を味わうのもいい。
ゆっくりと何かに思いを馳せるのもいい。

きわめて、贅沢な時間。
列車に身を任せて、ゆっくり時間を使う。
深夜のプライベート感溢れる、それはそれは至高のとき。
そんな特別な空間を醸成してくれる列車が、
もうすぐ、この国から姿を消そうとしている。

決して豪華なツアーでなくていい。
旅情というものが大事にされた列車の旅が、
今後出てきてくれることを願って止まない。
思いに耽るという贅沢をわかってくれる、そんな列車の旅を…。



寝台特急“あけぼの”車内より  2014年1月



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